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「Vaporwave」について

2010年以降、Turntable.fmやBandcampやSoundcloudといったコミュニティサイトの多くの匿名アカウントによる音楽コミュニティによって制作され、インターネット上で音楽ジャンルの一つにVaporwaveと呼ばれるものがある。音楽の定義が非常に曖昧で、Vaporwaveという用語が生まれた2011年以前のVaporwaveのルーツとされている作品群が存在していることや、2012年以降の様々なジャンルへと細分化が進み、Vaporwaveは混沌とした掴み所のない定義を持った音楽となった。 

「Vaporwave」と呼ばれる音楽の特徴は、人々が楽観的なほど純粋な眼差しで未来にユートピアを描いていた80年代の華やかで彩った文化を映し出していた時代の、当時の最先端技術を駆使した家電製品のテレビコマーシャルや、都市化の象徴とも言えるようシティポップや、郊外のショッピングモールだったりスーパーマーケットで販促BGMとして流されるいわゆるイージー・リスニング、つまり資本の香りを匂わす音楽を、ズタズタに切り裂いて滅茶苦茶にし、無駄にループさせたり、原型をとどめないほどにスクリューさせたりしたものだ。そのほとんどが他人の表現物の剽窃で、楽曲はネットで無料ダウンロードできる。

 

「Vaporwave」のルーツとも言われるアルバムがある。

2010年にニューヨークを拠点とするミュージシャンDaniel LopatinがChuck Personという名義でリリースしたアルバム『Chuck Person’s Eccojams Vol. 1』(2010年8月8日)だ。

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そのアルバム内の「A1」という曲においてサンプリングされているのは、1982年にアメリカのロックバンドTOTOが発表したアルバム『TOTO IV〜聖なる剣』に収録されている「Africa」という楽曲である。

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「Africa」はビルボードのホット100で1位を記録した1980年代の大衆音楽で、まさに「Vaporwave」の特徴的なサウンド素材だ。「A1」において「Africa」の「Hurry, boy, She’s waiting there for you」という歌詞の部分のメロディをピッチダウンさせ、「waiting」の部分をループさせ、メロディの終わりの部分をループさせ、始まりの部分をループさせ、チョップド&スクリュード[1]させている。

 

「Vaporwave」のはじまりとされる2011年後期から2012年8月ごろに籠城した初期「Vaporwave」の二大巨塔となった重要な人物が二人いる。

VektroidとInternet clubだ。

 

Vektroid

twitter.com

vektroid.bandcamp.com

 

Internet club

internetclub.bandcamp.com

 

Vektoroidは本名Ramona Andra Xavierというオレゴン州ポートランドに住む92年生まれの女性で、《New Dreams Ltd.》(現在は《PrismCorp™️ Virtual Enterprises》に改名されている。)という架空の会社の体をしたレーベルから情報デスクVIRTUAL、Laserdisk Visions、Fuji Grid TV、ESC 不在、Sacred Tapesty、Macintosh Plusなど様々な名義を使い分け、まるで「#Vaporwave」というジャンルがあるかのように自作自演しながら作品をリリースしていた。

特に、Macintosh Plus名義から《Beer On The Rug》からリリースした『Floral Shoppe』というアルバムは「Vaporwave」の金字塔的アルバムである。

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Interner clubは本名Will Burnettというテキサス州マッキニーに住む96年生まれの男性で、Vektroidと同様に░▒▓新しいデラックスライフ▓▒░、echo unlimited、datavis、wakesleepなどの複数名義で作品をリリースしている。

この二人が「Vaporwave」という言葉を使い始めたと考えられている。

このジャンル名がジョーク的に使われ出したことで多くの人に認知されだした。

 

 「Vaporwave」のような音楽は以前より存在していた。例えば80年代後期にジョン・オズワルドが提唱したプランダーフォニックス[2]という概念や、小田島等と紺野新一の二人組のユニット、BEST MUSICが2007年に〈スウィート・ドリームス〉からリリースした『MUSIC FOR SUPERMARKET』[3]などがあった。

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しかしこれらと「Vaporwave」の大きな違いは、インターネット上で個人が作品を公開できるようになった現代において、特定の市域性を持たずに、ネット上の音楽共有サイトを媒介して膨れ上がってしまった音楽ムーヴメントであり、またこのシーンのコミュニティに属するもののほとんどが匿名性であるが故に、多数のアーティストが盛り上がっているように見せかけているところだ。

 

 個人で簡単に作品公開できるサイトのBandcampにはアーティスト自身が作品の属性を説明できるタグ機能があり、膨大なアーカイブからこのタグで検索できるので、「Vaporwave」タグのついた作品を常に確認することができる。このシステムでは原理的にはどんな作品でも「Vaporwave」に成り得る。

次第に「Vaporwave」の定義が膨れ上がっていき、混沌とした音楽ジャンルへとなっていった。そうした増殖的なムーヴメントは聞くに耐えない「Vaporwave」を増殖させ、マンネリ化していった。

そんな中2012年末に、Ryan DeRobertisによるソロプロジェクト、SAINT PEPSIが出現するとこのシーンは、「Vaporwace」に「Disco Funk」を取り入れ、大衆に聞きやすい音楽となった。サウンドはビートを持ち、ダンスを促すようなそれはVaporboogieと呼ばれるようになった。そのジャンルをさらに発展させたのは、マクロスMACROSS 82-99だ。セーラームーンオタクである彼が作る楽曲のビデオには、著作権を無視してアニメのヴィジュアルイメージを多く使用していた。彼の作る音楽はVapornoogie をFuture Funkへと変容させた。Future FunkはLo-fi Hip Hopへと変容し、今日に至っているように思う。

「Vaporwave」は様々なジャンルへと分岐し、今やその派生ジャンルの多さを追い切ることが自分には難しい。

 

[1] 90年代にアメリカ南部のヒップホップ・シーンで生まれたリミックスの手法で、「極端に曲のピッチを落とした上でさらに半拍ずらしてミックスする」というもの。

[2] 「プランダーフォニックス」とは、「略奪(plunder)した音(phonics)を用いる音楽」を意味する、作曲家オズワルドの造語。

[3]小田島等+細野しんいち”からなる二人組が、スーパーマーケットに流れていそうな音楽をリメイク&リモデルしたアルバム。ラウンジ・ミュージックの洗練でなく、あくまでもポップへと寄っていく音楽は、現代人の深層心理を優しく侵していく。(薫)(CDジャーナル データベースより)

 

[参考文献](多くの引用があります、引用端折ってごめんなさい)

MASSAGE9 2014年1月10日 

 

 

 

次の記事ではVektroidとInternet clubへのインタビューを見比べてみる。

今回のはだいたいこういうものですねという(あまりにも)ざっくりとした紹介。